Mandala Types

コラム

「嫌な上司」を眺めてみる

親子が「選べない縦」、夫婦が「選んだ横」なら、職場は「選べない横」です。 しかも家族と違って、愛の契約がない。血縁も愛情もない他人と、 起きている時間の大半を過ごすのに、関係を修復する動機になる絆がない—— 構造的に、消耗戦が起きないわけがないのです。 職場とは人間の坩堝るつぼであり、上司に限らず、理不尽な先輩も、 縄張りを守る御局様おつぼねさまも、 話の通じない他部署も、そこで煮えています(笑)。

「嫌な上司」は、9種類いる

まず解像度を上げるところから。「嫌な上司」とひとくくりに言いますが、 よく見ると嫌さには型があります。そしてその型は、 各タイプが余裕を失ったときの崩れ方(長所の裏面)と、 きれいに対応しています。

  • タイプ1の崩れ — ズレた正論で刺してくる(小言・ダメ出し・「普通はさ」)
  • タイプ2の崩れ — 恩を着せて縛ってくる(「あなたのためを思って」・世話の押し売り(御局様に多い型))
  • タイプ3の崩れ — 成果マウントと見栄えの強要(数字の詰め・「で、結果は?」・上にだけいい顔)
  • タイプ4の崩れ — 気分で職場の天気が変わる(機嫌の察し合いを部下に強いる)
  • タイプ5の崩れ — 情報を出さない・関わらない(放置・丸投げ・何を考えているか分からない)
  • タイプ6の崩れ — 疑ってはしごを外す(確認攻め・責任の押しつけ・裏読み)
  • タイプ7の崩れ — 思いつきで振り回す(朝令暮改・言いっぱなし・尻拭いは部下)
  • タイプ8の崩れ — 威圧で場を支配する(恐怖政治・反論=歯向かい・声がでかい)
  • タイプ9の崩れ — 決めない・守ってくれない(のらりくらり・問題の先送り・板挟みの放置)

あなたの職場の「あの人」の嫌さは、どの嫌さだったでしょうか。 ここで大事なのは、これが「嫌な人の一覧」ではなく 「崩れ方の一覧」だということです。どの型も、余裕があるときには まったく同じ性質が長所として働きます(決断力、品質へのこだわり、リスク察知……)。 嫌な上司とは、多くの場合「余裕を失った状態が定常化した人」なのです。

「眺める」——標的から観察者へ、半歩ずれる

このコラムのタイトルが「対処する」でも「戦う」でもなく「眺める」なのには、理由があります。

理不尽を浴びている最中、あなたは標的の位置に立っています。 でも「この人はいま、どのタイプの、どの崩れ方をしているんだろう?」と考えた瞬間—— あなたは標的から観察者へ半歩ずれます。 感情の直撃を、興味が一枚吸収してくれる。 心理学ではこれを認知の再評価と呼びますが、平たく言えば、 職場を人間の生態観察フィールドにしてしまうということです。 皮肉で言っているのではありません。これは本気の防具の話です。

そして眺めていると、嫌さの下にあるものが見えてきます。 威圧(8)の下には「主導権を失えば食われる」という恐れ。 小言(1)の下には、誰よりも自分を責める内なる採点者。 成果の詰め(3)の下には「結果のない自分は無価値」という怯え。 はしご外し(6)の下には、誰も信じられない不安。「怖い人」が「怖がっている人」に見えた瞬間、 力関係の感覚が静かに変わります。ついでに、溜飲も少し下がります(笑)。

で、こんなささやかなものが、本当に役に立つのか?

正直に答えます。エニアグラムは、上司を変えられません。組織も変えられません。 ハラスメントも解決しません(それは人事と、しかるべき機関の仕事です)。 消耗戦の現場でタイプ論なんて、確かに「ささやか」です。 でも、ささやかに、確実に効くものが3つあります。

① 消耗の削減。上で書いた「半歩ずれる」です。相手は変わらなくても、 直撃を浴び続けるのと観察しながら受けるのとでは、夜の疲れ方が違います。 家に帰ってから家族に八つ当たりしなくて済んだら、その日は勝ちです。

② 対処の精度。嫌さの型が分かれば、効く接し方も型で分かります。 8には回りくどさが最悪で、結論から直球が効く。1には先に「おっしゃる通りです」と 関心を認めてから事実を並べる。6には根拠と、言行の一貫性。 各タイプの取説の「辛口で読む」に、型別の対処法をまとめてあります。 闇雲に耐えるのと、地雷の位置を知って歩くのとでは、被弾率が違います。

③ 距離の判断。そして、理解した上で「この人の崩れは深い。近づかない」と決めることも、 立派な——ときには最良の——対処です。 理解は我慢の理由ではありません。むしろ逆で、 構造が見えるからこそ「これは私の努力で変わる範囲ではない」という 撤退の判断が、罪悪感なしにできるようになります。逃げていいのです。

坩堝るつぼは、シンフォニーの器でもある

最後に、坩堝るつぼの反対側を。うまく回っているチームを観察すると、 そこではタイプの分業が起きています。 8が壁を突破し、6がリスクを洗い出し、2が新人を支え、5が深掘りし、 3が締め切りを守らせ、9が対立を調停し、1が品質を守り、7が停滞に風を通し、 4が「そもそも何のために?」と意味を問い直す。

つまり、職場の多様なタイプは不協和音の種であると同時に、編成の豊かさでもある。 あなたをイライラさせる「あの人」の性質は、チームにとって、 あなたには出せない音を担当している可能性があります (6の心配性はチームの保険であり、1の細かさは品質保証です)。不協和音は、編曲の失敗であって、楽器の欠陥ではない—— そう見えてきたら、坩堝るつぼは少しだけ、オーケストラのリハーサル室に見えてきます。

ひとつだけ、いつもの注意を。同僚のタイプを推測して、陰で札を貼って裁き始めたら、 それは観察ではなく判決です。 仮説は自分の対処のためだけに、そっと使ってください。 あの人を好きになる必要はありません。理解は好意の準備ではなく、消耗を減らす技術です。 そして眺めているうちに、職場の人間ドラマがちょっと面白くなってきたら—— あなたはもう、坩堝るつぼに煮られる側ではなく、坩堝るつぼを覗く側にいます。